Chocolate Time キャラクターと語る
エッセイ集
『Chocolate Time』シリーズをお読み頂いている読者の皆さまなら、すでにお解りになってらっしゃると思いますが、この物語に登場する男性たちには少なからずバイ要素があります。自らそれを公言しているケネス・シンプソンはもとより、その親友のケンジも、こうして男であるケネスとキスしたりハダカで抱き合ったりすることには、それほど抵抗を感じていません。というより、かなり積極的にケネスを受け入れているようです(外伝集「Hot Chocolate Time」第4話「男同士タイム」)。
となると、ケンジやケネスの本来のパートナーである女性のミカやマユミとの確執が出てくるのが普通ですが、この話の中では、それはそれで許し合っています。
それは、作者である僕がバイセクシャルだからです。
乱暴な言い方をすれば『男にも女にも恋愛感情を持つことができる』のがバイ。日本語表記では『両性愛者』。
世の中で「普通」と思われている『異性愛者』は、男と抱き合ってキスなんて気持ち悪くてできるわけねえだろ!という男性や、女友達は『友達』であって、それ以上の感情は持てないという女性を指します。
逆に、時に偏見の目で見られ、キワモノ扱いされたり、嘲笑や興味本位の対象にされることも多い『同性愛者』は、同性にしか恋愛感情を持てない志向の人々。
僕がバイだからかもしれませんが、僕はその全てをアリだと思っています。個人の趣味、趣向の問題ですからね。誰にも迷惑を掛けない以上、異性愛者が同性愛者を蔑む権利もないし、両性愛者を同性愛者が『真剣に自分の性的志向と向き合ってない』などと非難するのもナンセンスだと思う。
僕は、皆さんと同様、今までに何人かの人を好きになりました。小四の時Yさん(女)、小五の時Mさん(女)、小六の時Tくん(男)、中一の時Kさん(女)、中二でつき合ったのはY2さん(女)、高二の時Mくん(男)、高三でK2さん(女)、結婚したのはSさん(女)、社会人になってからKくん(男)、M2くん(男)
、T2くん(男)……。
その全てに、同じように胸を熱くし、四六時中頭の中にその面影を宿し、好きという気持ちを伝えたい、そう思っていました。ずっとそうだったので、僕は自分がバイであることを(幸運なことに)不幸だとも、変だとも思っていません。
もちろん、他の志向を持つ人にとっては、僕のこの「趣味」は異様に写るでしょうし、理解できないのかもしれません。でも、それは「俺、クラシックが好きなんだ」という人に向かって「えー、あんなののどこがいいんだよ。音楽はJ-POPだろ」と返すのとあまり変わらない気がする。J-POP好きの人たちはたくさんいるけれど、クラシック愛好家だってたくさんいるはず。さらにJ-POPでも、ラップ系がいい、という人もいればバラード最高だろ、という人もいる。
それは同じバイでも、女性とはセックスしたいと思うけど、男とはキスで十分、とか、ゲイでも方やニューハーフとして愛されたい人と思っている人がいる一方、あくまで男同士の汗臭さに興奮する、という人もいるわけで、複雑で多岐に亘る志向の人たちを乱暴に「ゲイだ」「バイだ」「百合だ」とひとくくりにできないものでもあると思います。
そういうバイの僕が書いている小説の世界を丸ごと全部好き、という読者はほとんどいないのかもしれません。イケメンとセックスしている自分を想像していい気持ちになる女性が、ケンジがケネスとハダカで抱き合う場面を見た途端拒絶反応を起こしてしまうかもしれないし、異性に全く興味がない、という男性は、もとからこんな男女の甘いカラミの小説なんぞ読まないだろうし……。
それでも作者としては、自分の好みに応じて、気に入ったエピソードを選んで読んで頂けるだけでも幸せなんですけどね。
2013,8,31 Simpson
博報堂DYグループの株式会社 LGBT 総合研究所が2016年5月にインターネットを通じて20歳から59歳までの男女を対象に行った調査によると、LGBT(性的少数者)の割合は全体の約8%に上ることがわかりました。要するに13人のうちの一人がそうである計算になりますね。公立中学校の一クラス40人の中に3人はLGBTが存在するという勘定です。
では、その8%の内訳はと言うと、代表的なレズビアン、ゲイ、バイセクシャルの三つについてはそれほどの差はありません。
ちなみに、LGBTの人がストレートの人よりその支出において明らかに高い割合を示した(つまりより多くそのことにお金を使った)のは「旅行」「ペット関連」「芸術鑑賞」という興味深い調査結果も併記されていました。
もちろんこの数字は社会の変化と共に変動するものと思われますし、国や地域によって、文化や制度の違いによっても違ってくるでしょう。
いずれにせよ僕ら性的少数者の大きな願いは、生来こういう性的傾向を持っている人たちが確実に存在していて、それでもこの日本の社会の中ではまだまだ肩身の狭い思いをしているということを誰もが知っていて欲しい、ということです。
2017,12,25追記 Simpson
《Information》
両性愛者のアイデンティティを象徴する図形「bisexual double moon symbol」
異性愛者、同性愛者のどちらからも受け入れを拒まれたり、両性愛者自身が、自分の立ち位置を同性愛者にも異性愛者のコミュニティにも置けないという悩みを持ったりする”攻撃”や”誤解”を取り除き、両性愛者の立場や志向を守るという考え方が徐々に社会に浸透してきました。
「bisexual double moon symbol」は男と女の性の象徴としても用いられる火星と金星の天文学的記号をモチーフにしていて、両性愛者が異性愛者、同性愛者どちらの性社会にも開かれたものであることを表しています。