Chocolate Time キャラクターと語る
エッセイ集
修平と健太郎と龍は、そろっていつものスーパー銭湯に来ていた。
サウナで汗を流していた三人は底抜けに明るい女性の声に振り向いた。
夏輝「シート交換に来ましたー」
ドアが開いて替えのタオルシートを抱えて入ってきたのは、ポニーテールの若い女性だった。
龍「えっ?!」
健太郎「い、いつものおばさんじゃない……」
修平はとっさに立ち上がって、入ってきたその女性に近づいた。
修平「ね、ねえちゃん! いい脚してんじゃねーか。アドレス教えてくんねえか?」
夏輝「あいにくケータイは事務所です」
修平「俺、もう風呂出るからよ、その事務所に行っていいか?」
その時、背後から健太郎が修平の腕と肩を掴んだ。
健太郎「修平、こんなとこで見境なくすなっ!」
夏輝「ここに置いときますから、自分たちで広げてくださいねー」
娘はそう言って、濡れたシートの山を抱え、すぐに出て行った。
◆
ずっと気になっていることがあります。
スーパー銭湯などに行くと、こんな風に時々従業員がサウナのタオルを替えたり、脱衣所のシートを敷き直したりしに来るのですが、男湯に入ってくるのはだいたい中年以上の女性。
これって問題だと思いませんか?
まず、これが逆の立場だったら、絶対に許されないはずです。女湯に男性従業員が入っていくなんて言語道断でしょう。
どうして男湯に女性従業員が入ってくるのは『普通』なのか、僕は理解に苦しみます。
僕にはとっても抵抗がありますね。だって、その人が知り合いのおばさんだったら恥ずかしいでしょ? それに、相手はユニフォームを着ていて、こちらはハダカ。どうにもいたたまれなくなるってもんです。無論、だから従業員のおばさんも全裸でメンテをやってくれ、と言っているわけではありません。
もう一つ。当事者のおばさんにとっては完璧セクハラになるでしょう。だって好むと好まざるとに関わらず、ハダカの男どもに囲まれるんですよ? 従業員が若い女性だったらなおさらイヤでしょうね。もしかしたら、卑猥な言葉を掛けられるかもしれないんです。
男湯のメンテは男性でいいんです。その方がこっちも安心してゆっくり風呂に入っていられるってもんです。
◆
ちょっと理詰めで迫ってみましょう。「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」の第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等、第一節 性別を理由とする差別の禁止等の条文の中には、「事業主は、労働者の募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない」とあり、これだけ見れば男が女湯のメンテナンスを行う業務を担当しても良さそうなものですが、「ただし、業務を行う上で片方の性別でなければならない理由があれば、除外される。」という但し書きもあり、それには「宗教上、風紀上、スポーツ競技の性質上その他の業務の性質上いずれか一方の性別に従事させること」として
等が列挙されています。そういうことで言うなら確かに女湯に男性従業員が入ることは難しくなりますね。これについてはとりあえず諦めることにして、その逆の場合、つまり女性従業員が男湯に入ってくることについて。
法律ではありませんが、いわゆるセクシャルハラスメントの定義で見てみると、環境型セクハラの一つに、「職場や学校などで、ヌードカレンダー、水着ポスターなど、人によっては不快感を起こすものの掲示、性的な冗談、容姿、身体などについての会話」というものがあって、女性従業員による男湯の中での労働はもうこれどころではないと思うのですが……。公園や公共の場で男の全裸を見せられたら大問題なのに、こういう温泉施設なら問題ない、という感覚には僕はいつまでたってもなれないのです。
◆
女湯の暖簾をくぐって修平はいそいそと中に足を踏み入れた。
修平「失礼しまーす。タオル替えに、」
きゃー、なんで入ってくるわけ? 出てって! という声が怒濤のように襲ってきた。
修平「え? だって、男女雇用機会均等法には性別を理由として差別的な取り扱いをしてはならないって書いてあ、」
ひゅっ! がいん!
出し抜けに湯の入った桶が飛んできて修平の顎を直撃した。
修平「はうっ!」
修平「やっぱだめか……」
健太郎「当たり前だ、ばかっ!」
2014,11,16 Simpson